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熊本地方裁判所 昭和42年(わ)407号 判決 1971年8月23日

本店所在地

熊本市手取本町四番一二号

旧商号

合資会社桑本洋装店

合資会社

桑本不動産

(右代表者 桑本ミキ)

本籍

熊本市白山町一四番地

住所

同市同町一丁目六番五号

会社役員

桑本ミキ

大正四年六月一日生

右会社および桑本ミキに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官高田文男出席して審理し、つぎのとおり判況する。

主文

被告人合資会社桑本不動産を罰金一、五〇〇、〇〇〇円に、被告人桑本ミキを懲役六月および罰金一、二〇〇、〇〇〇円に処する。

ただし、被告人桑本ミキに対し、この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行の猶予する。

被告人桑本ミキにおいて、右罰金を完納できないときは、金一〇、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告会社および被告人桑本ミキの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人合資会社桑本洋装店は、熊本市手取本町四番一二号に本店を置き、婦人子供服地洋品雑貨の販売を目的とする資本金五、〇〇〇、〇〇〇円の合資会社で、昭和四二年九月一日商号変更により合資会社桑本不動産となつたもの、被告人桑本ミキは右会社の代表社員で、その業務全般を統轄掌理していたものであるが、被告人は被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、仕入の水増(架空仕入)を計上する不正手段により収益の一部を秘匿し昭和三八年九月一日から同三九年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は、別紙(一)(1)修正損益計算書、同(一)(2)修正脱税額計算書記載のとおり金二二、四七〇、四〇〇円で、これに対する法人税額は金七、七四八、二七〇円であるのにかかわらず、昭和三九年一〇月三一日熊本市熊本税務署において、同税務署長に対し、所得金額は金一二、七七二、二〇〇円、これに対する法人税額は金四、〇六九、一四〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し被告会社の右事業年度の正規の法人税額金七、七四八、二七〇円と右申告税額との差額金三、六七九、二三〇円をほ脱し、もつて不正の行為により法人税を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全般について

一、被告人の第一回、第一六回ないし第一九回各公判調書中供述記載ならびに当公判廷における供述

一、大蔵事務官の被告人に対する昭和四〇年八月一八日付、二〇日付、九月一八日付、二一日付、一二月一〇日付各質問てん末書

一、被告人の検察官に対する供述調書

一、熊本地方法務局登記官作成の合資会社桑本洋装店および合資会社桑本不動産の各登記簿謄本

一、証人板井寛の第六回、第七回、第九回、第一〇回各公判調書中の供述記載

一、領置してある法人税決議書綴二冊(昭和四三年押第一三八号の四三、七五)

修正損益計算書の各勘定科目中「仕入」・「雑費」について

一、証人波佐間昇の第四回公判調書中の供述記載

一、株式会社住友銀行熊本支店長作成の普通預金元帳写(検察官証拠申請目録番号-以下「検」と略称-二八号再申請番号-以下「検再」と略称-一三五号、国税局証明書番号-以下「証」と略称-1号)

一、同銀行岐阜支店長作成の普通預金元帳写類九枚(検二九号、検再一三六号、証9号)

一、同銀行備後町支店長作成の確認書(普通預金元帳写四枚、通知預金元帳写一枚、当座口振込依頼票二枚)(検三〇号、検再一三七号、証5号)

一、同銀行心斎橋支店預金副係長作成の確認書(検三一号、検再一三八号、証6号)

一、同銀行名古屋支店副長作成の通知預金記入帳写(検五九号、検再一六四号、証10号)

一、同銀行一宮支店長作成の通知預金記入帳並に振替入金伝票、通知預金証書、印鑑等写(検六〇号、検再一六五号、証21号)

一、同銀行名古屋支店副長作成の電信当座口振込入金伝票等写(検六一号、検再一六六号、証18号)

一、右同人作成の電信当座口振伏入金伝票写(検六二号、検再一六七号、証19号)

一、同銀行玉造支店次長作成の確認書(振替入金伝票四枚ほか一二枚)(検六三号、検再一六八号、証8号)

一、同銀行熊本支店作成の電信当座口振込入金伝票写(検一八五号)

一、領置してある仕入買掛残高表綴一綴(前回押号の四二)

同勘定科目「預金利息」について

一、証人波佐間昇の第四回公判調書中の供述記載

一、株式会社住友銀行熊本支店長作成の普通預金元帳写(検二八号、検再一三五号、証1号)

一、同銀行岐阜支店長作成の普通預金元帳写類九枚(検二九号、検再一三六号、証9号)

一、同銀行備後支店長作成の確認書(検三〇号、検再一三七号、証5号)

一、同銀行心斎橋支店預金副係長作成の確認書(検三一号、検再一三八、証6号)

一、同銀行名古屋支店副長作成の普通預金元帳写二通(検三二号、三三号、検再一三九号、一四〇号、証13号14号)

一、同銀行一宮支店長作成の普通預金元帳、同印鑑、当座勘定受入勘定表写(検三四号、検再一四一号、証証22号)

一、株式会社肥後銀行水道町支店塚本正人作成の預金利息支払証明書(検五三号、検再一五八号、証3号)

一、領置してある普通預金元帳八冊(前同押号の八ないし一五)

(法令の適用)

被告人桑本ミキの判示所為は、昭和四〇年法律第三四号法人税法附則第一九条により、その改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)第四八条第一項に該当するところ、犯情により懲役刑と罰金刑とを併科することとし、その所定刑期および罰金額の範囲内において、同被告人を懲役六月および罰金一、二〇〇、〇〇〇円に処し、被告人合資会社桑本不動産については、その代表者桑本ミキが同会社の業務に関して前記違反行為をなしたものであるから、昭和四〇年法律第三四号法人税法附則第一九条により、その改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)第五一条第一項、第四八条第一項により罰金刑を科すべく、その所定罰金額の範囲内において、被告会社を罰金一、五〇〇、〇〇〇円に処し、被告人桑本ミキにつき、刑法第二五条第一項によりこの裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予し、同法第一八条により同被告人において右罰金を完納することができないときは、金一〇、〇〇〇円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとする。

(検察官主張の各勘定科目に対する判断)

本件公訴事実の要旨は、

被告人桑本ミキは、被告会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもつて、仕入れの水増を計上するなどの不正手段により得た資金で架空名義を用いて預金するなどの方法で収益の一部を秘匿し、昭和三八年九月一日から同三九年八月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額は金二七、四四四、六〇〇円、これに対する法人税額は金九、六三七、一〇〇円であるのにかかわらず、所轄熊本税務署長に対し、所得金額金一二、七七二、二〇〇円、これに対する法人税額は四、〇六九、一四〇円である旨の虚偽の法人税額確定申告書を提出し、同会社の前記事業年度の正規の法人税額金九、六三七、一一〇円と前記申告税額との差額金五、五六七、九七〇円をほ脱し、もつて不正の行為により法人税を免れたものである。

というのであつて、別表(二)(1)脱税額計算書、(2)資産負債増減表(簿外分)、(3)損益計算書(簿外分)記載のごとくその明細を主張するのである。

当裁判所は、検察官の主張する勘定科目中、損益計算書(別表(二)(3))の(1)仕入、(4)雑費、(5)公租公課については、前判示のとおり、いずれもこれを認めたけれども、(2)預金利息中の定期預金利息分金九一三、二四〇円、(3)受取配当金の全額については、その証明がないものとして、これを排斥するのを相当と考える。この点に関する当裁判所の判断を示せばつぎのとおりである。

第一投資有価証券(別表(二)(2)資産負債増減表3欄)とその受取配当金(別表(二)(3)損益計算書3欄)

検察官は、被告会社は、昭和三八年九月一日現在簿外資産として金六三、二八四、七〇六円の投資信託を所有し、本件事業年度において、金七三〇、〇〇〇円の増加が認められ、これに見合う当期の受取配当金は金四、〇六一、〇一四円であるが、右はすべて被告人桑本ミキが被告会社の代表者の資格においてなした処理によつて発生したもので、当然被告会社に帰属するべきものであると主張する。

一、そこで検討するに、証人金井永(第五回)、同大沼誠一(第六回)、同入江智恵子(第四回)、同板井寛(第六七、九、一〇回)の各公判調書中の供述記載、当裁判所の証人宮川清久、同今井茂夫、同岩井哲夫、同松原繁生、同川名貞雄に対する各尋問調書、検察官作成の鑑定嘱託書ならびに熊本県警察本部刑事部鑑識課長作成の「鑑定結果について」と題する書面、山一証券株式会社、野村証券株式会社などの作成した書証類(検三九号ないし四九号、五二号、以上は検再一四四号ないし一五五号、一五七号に該当、検一八〇号ないし一八二号)ならびに証拠物(前同押号の一七ないし三六)を総合すると、右投資信託の帰属主体が被告人桑本ミキ個人なのかの点はしばらく措きそのすべてが被告人の取り扱いにかかるものであることを認めることができる。被告人は、査察段階から右投資信託は一切被告人の関知しないものである旨強弁してきたが、第一八回公判期日(昭和四六年二月二三日)においてこれを覆えし、その大部分は自己の所有に属するものである旨述べ、そのすべてではないが、その、大部分について自己が取り扱つたものであることを認めるに至つた。しかし、本件投資信託の明細は前掲証拠により検察官の冒頭陳述書第一六頁の一覧表記載のとおり認められるのであつて、これによつて明らかなごとく被告人が当初山一証券東京本店において、仮空人名義を用いて購入した投資信託を順次解約し、それを資金として野村証券大阪支店等において同社の投資信託を買い入れる方法によって順次乗り替え、また随時新規購入を加えて、検察官主張の投資信託全部の保有を形成したもので、その発生から本件告発年度に至るまでの各取引の連けいは査察官によつて克明徹底的に追跡調査され、その全貌は明白となつており、したがつて検察官主張の全額が被告人の処理にかかるものであることについては、これに疑をさしはさむ余地はない。

二、そうだとすれば、つぎに、右投資信託が被告会社に帰属するものであるかどうかの点を検討しなければならないが、被告人の弁解にかんがみ、本件証拠を調査してみると、検察官の右投資信託がすべて被告会社に帰属するとの点については、これを認めるに足る直接かつ適確な証拠は見当らない。もつとも、大蔵事務官の被告人および白石一彦に対する各質問てん末書など若干の書面に「会社の簿外」「裏預金」というような表現が散見するが、これを当公判廷における被告人の供述または供述記載、証人近藤敏昭の供述に対比して考察すると、査察調査の対象が専ら被告人との結びつきの有無に集中していた経緯にかんがみ、法人と個人とを識別したうえでその帰属関係を明確にする趣旨で供述されたものかどうか疑いがあり、かかる片言集語をもつてその所有権の帰属を決定することは、正確を得たものとはいいたいが、そしてまた、取引銀行の伝票類(前掲検三一号)に被告会社名を用いたものがあるけれども、その記載の性質を考えれば、これをもつて取引先が法人であることを確認する証拠とはしがたい。

そこで、進んで諸般の情況証拠によりこれを認めることができるかにつき検討を進めてみるに、

(イ) 前掲関係各証拠を総合すると、被告会社は、昭和三一年所轄税務署の特別調査を受けた経験があり、そのため被告人はこれに懲り、以後法人税の課税対象となるべき所得の秘匿に腐心し、被告会社への帰属について争のない前判示架空仕入については、遠隔地の取引先名を用い、相当複雑巧妙な手段方法を用いていることが認められるところ、争いのある本件投資信託についてもほぼ同様の発想方法により、前記のごとく架空人名義を用い、本店所在地を遠く離れた東京、大阪等において買入れているほか、後記定期預金についても、右同様、多数の架空名義人の認印を用い、容易に穏匿資産が発見されないよう工夫し、その巧妙さとこれに払われた精力は相当なものがうかがわれ、その規模と態様に照らせば、右工作が個人の裏所得の秘匿をするためになされたとするにはふさわしくないこと。

(ロ) 大蔵事務官の被告人に対する昭和四一年六月一日付質問てん末書、第一八回公判調書中証人杉野梅次の供述記載ならびに法人税決定決議書綴二冊(前同押号の七三、七五)調査書類(同押号の七四)、被告会社から押収した各種帳簿類等(同押号の四八ないし七二)によると、査察官は、昭和三二年度から同三九年度までの被告人桑本ミキの個人資産を克明に調査し、「桑本ミキ個人資産明細表」(前記質問てん末書末尾添付)を作成し、同表載事項の明細は、証人杉野の調書末尾添付の「桑本ミキ個人資産明細表の説明書」のとおりであることが認められる。そして、かかる調査がなされたのは、本件のごと 資本金五、〇〇〇、〇〇〇円程度の小規模な、いわゆる同族会社にあつては、応々にして法人の代表者の資格と個人の資格との混同が多く、法人に帰属すべき資産を確定するためには、その裏付けを取る必要性があつたためと認められる。ところで、この表のうち、本件事業年度の前後にあたる昭和三六年度から同三九年度に至る間に着目し、被告人桑本ミキの個人資産の増差額(前年度比)と当該年度における被告人の個人収入とを抽出し、これを一覧表にすれば別紙(四)のとおりであつて、これによれば、これら各期の被告人の個人収入によつては、当該事業年度における個人資産の増加分に充当するのに精一杯で、その余の投資信託等の利殖方法に投入すべき資金的な余裕がなく、とうてい多額な本件投資信託の資金源として個人資産をその用に供したとは認めがたいこと。

(ハ) 被告人は、昭和四一年一月二六日国税局長からの照会に対し会社代表者の資格において上申書(検一九一号)を提出して、個人資産の明細を回答しているが、その内容は大雑把なものであつて、前記のごとく明細の明らかとなつた本件投資信託はそれに含まれていないか、もしくは該当部分が明確にされていないようであり、またかかる多額の個人資産があるのであれば、当時これを申告すべきであるのに、個人の所得税確定申告書にこれを乗せた形跡が証拠上認められない。そして、当公判廷においては、黙して検察官が証拠によつて一応各投資信託の存在を明らかにしても、その資金源が個人資産であることについて積極的に説明し、反証を挙げる努力をしようとしない状況にあること。

(ニ) 証人杉野梅次の当公判廷における供述、同調書に添付の「差益率調」と題する書面によれば、被告会社の昭和三三年から同四五年度に至る事業年度の売上差益率は別表(四)のとおり認められる。これによれば、昭和三三年度までの申告差益率は、本件告発年度後である同四〇年度以降のそれに比較し低率であるが、元来正常な事業経営における差益率は、原則として毎年度一定率を保つべきものであり、告発年度が低率であれば、架空仕入または売上の脱洩等の不正手段によつて生じた簿外資産の存在を推認させる。そして、調査の結果発見された簿外資産(更正決定による)を申告売上高に加算して差益率を計算しなおすと、別表「調査差益率」欄記載のパーセンテージになり、一応正常値を示すことになること。

「以上のごとき諸般の事情を総合勘案すると、本件投資信託は被告会社の簿外資産を資金源とし、それが会社に帰属する蓋然性が高いものといわなければならず、他に特段の反証のない限り、すべて法人に帰属するものと推認して差し支えないものとも考えられる。

三、しかしながら、およそ法人のほ脱所得を認定するに際し、ことに納税義務者たる被告人の協力を得られない場合客観的証拠資料によりこれを把握することは、その性質上きわめて困難であつて、そこに税法上独特の証拠法則を認める余地があろうけれども、ほ脱所得の帰属主体が法人か法人の代表者個人かについて争いを生じた場合、それが法人に帰属することについて、証拠上合理的な疑いを容れる余地がない程度にまで証明されない限り、やはり犯罪の証明がないことに帰するとしなければならない。」

ところで、被告人は、当公判廷において、終戦後満州より引揚げ、衣料品のかつぎ行商をして大阪熊本間を往復するなどし、粒々辛苦して蓄財し、昭和二六年ころには金一〇、〇〇〇、〇〇〇円位の資産を得たので、同年五月うち五、〇〇〇、〇〇〇円を割いて被告会社を設立し、その残額を会社資産と区別して運用利殖し、昭和三一年当時一三、〇〇〇、〇〇〇円(あるいは二-三〇、〇〇〇、〇〇〇円ともいう。)を保有した。そして、その当時、多額の個人資産を有していた証左として、同年度における所轄税務署による特別調査の際、発見された会社の簿外資産のうち金五、七〇〇、〇〇〇円を取り分け、被告人の個人資産として認めてもらつている事実がある旨主張する。そこで、被告人の右主張にかんがみ検討するに、前掲証人杉野梅次の証言および同記載ならびに「昭和三一年七月三一日付否認分の処理」と題する書面によると、特別調査の際、金五、七〇〇、〇〇〇円相当の有価証券が発見されたが、その性質上、これを法人資産として保有させることを不適当と認め、これを被告会社から被告人に譲渡し、これに見合う帳簿上の処理をしたもので、前記書面はその過程を示したメモと認められるのであるから、被告人が主張するごとく、被告会社の簿外資産の中から個人資産の混入していたのを取り出し、これを個人資産として税務署が確認したということではないのであつて、その主張は前提の認識を誤つており採るに足りない。

ただ、ここで看過できないことは、被告人の所有に帰した右有価証券の運命についてである。すなわち、前記 「桑本ミキ個人資産明細書説明書六頁に明らかなごとく、右有価証券は漸次資産化され、昭和三九年八月期において「資産化不明分三、七八八、四六四円」として姿を現わしているが、本件事業年度においてその存在の存り方を明確にするに足る証拠がない。そうだとすると、この被告人の個人資産として確認されている右金額が、いわゆる同族会社の資産区分のあいまいさから、被告会社の資産に混入している可能性が十分認められるのであつて、このことは杉野証人もこれを肯定している。そして、被告人が本件投資信託の総額に見合う多額の個人資産を有していたとの主張は、その利殖方法、金額の主張が区々で前後矛盾するたとに照らし、とうていこれを措信できないけれども、前記資産化不明分の考察を足掛りに考えると、被告会社は被告人の単独意思ですべて決裁されていた実情にかんがみ、他にも本件投資信託の資金源として個人資産が一部支出されたと疑う余地がある。それに、前段説示の情況証拠による推認は、その性質上限界があり、ことに重要資料である個人資産明細表も同表記載以外の個人収入がなかつたと断定できるかどうか疑問があり、査察段階において、内容をなす数字について被告人の承認を得て確定していない本件において、その証明力は疑問といわなければならない。

四  以上の次第であるから、本件投資信託の中に、被告人の個人資産を資金源とするものか、その額は多額とはいえないにしろ、一部混入している疑が濃厚であつて、かかる場合そのすべてが被告会社に帰属するためには、やはり証明不十分といわなければならない。したがつて、結局検察官主張の金額について被告会社への帰属を認めるわけにはいかないことになるが、そうであればこれに見合う損益計算書における受取配当金も被告会社のほ脱所得より控除しなければならない。

第二定期預金(二)(2)資産負債増減表2欄)とその預金利息(別表(二)(3)損益計算書2欄)

本件定期預金の内訳は、別表(二)(4)内訳一覧表記載のとおりであり、証人波佐間昇(第四回)、同大沼誠一(第六回)の各公判調書中の供述の記載、大蔵事務間の白石一彦、山中義雄に対する各質問てん末書、定期預金証書等の証拠書類(検三五ないし三八号)および証拠物(前同押号の一ないし七)を総合すると、住友銀行熊本支店において昭和三六年八月三一日発生した三、 〇〇、〇〇〇円、富士銀行熊本支店において昭和三六年一二月発生した五〇〇、〇〇〇円および肥後銀行水道町支店において昭和三八年八月発生した一二、三五〇、〇〇〇円はいずれも被告人の取り扱いにかかり、同人がこれを預け入れたことを認めるに足りるが、検察官の援用する全証拠をもつてしても、その各発生源を明確にすることはできない。

そして、前記第一投資有価証券の項において判示したところと同一の理由により、右定期預金は、被告会社の簿外資産を資金源とし、被告会社に帰属する蓋然性が高く、少くともその大部分が被告会社の所有と推認できるけれども、前判示同様の根拠から右預金中に被告人の個人資産が混入している疑を払拭し切れないものと認むべきであるから、結局検察官主張の右全額について、被告会社に帰属するとするには証明不十分といわなければならない。

そうだとすれば、右各定期預金によつて発生した預金利息の内訳は別表(二)(5)の一覧表記載のとおりであるから(住友銀行熊本支店の定期預金利息一九四、八〇七円は、前記三、一〇〇、〇〇〇円に対応するものである。)その合計額九一三、二四〇円は、同期ほ脱所得より控除されるべきものである。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺沢栄 裁判官 畑地昭祖 裁判官 甲斐誠)

別表(一)

(1)

修正損益計算書

昭和38年9月1日

昭和39年8月1日

<省略>

別表(一)

(2)

修正脱税額計算書

<省略>

税額の計算

<省略>

別表(二)

(1)

脱税額計算書

自 昭和38年9月1日

至 昭和39年8月31日

<省略>

税額の計算

<省略>

別表(二)

(2)

資産負債増減表(簿外分) B/S

<省略>

(注)1. 「昭和38年9月1日現在」欄および「昭和39年8月31日現在」欄は、それぞれ「期首」「期末」と別称する。

2. 「期首」「期末」欄の△は負債勘定を示す。

3. 「増減」欄の△印は負債の増加を示け。

別表(二)

(3)

損益計算書(簿外分)

P/L

<省略>

(注) 金額欄で△印のものは損金を示した。

別表(二)

(4)

定期預金内訳一覧表

<省略>

別表(二)

(5)

預金利息・内訳一覧表

<省略>

別表(三)

桑本ミキ個人資産対照表

<省略>

別表(四)

売上差益率調

<省略>

<省略>

<省略>

判決にかかる修正仕訳

<省略>

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